マンションにおける合意形成について

100棟のマンションが有れば、住んでいる人達、建物、設備、年数、管理規約、管理会社等々どれ一つとして同じではありません。また、個人個人のマンションへの思い入れ、考え方暮らし方なども違います。

マンションに暮らすということは、白黒をつけるのではなく妥協点を見つけて納得したものを共同で住みやすくするために実行していくことと考えています。

あるマンションの理事会でのことです。

長期修繕計画書の内容及び計画見直しを行い、現在の修繕積立金の計画通りでは資金不足となり、積立金を大幅に値上げする必要があることが判明しました。
まず現状を知って頂くこと、そして段階的に値上げを行うパターン、均等に積み立てるパターンの説明をしました。

理事さんたちの年代はバラバラ、生活環境、家族構成も多様、30代40代の理事さんの意見と60代の理事さんの意見は正反対の意見でした。
修繕積立金の値上げは、当事者であるみなさん達の個人の生活に直面してかなりのインパクトがあり、日々の家計を圧迫するため、個人の本意の意見になります。
できることなら避けたいと思うのが人情です。

しかし管理組合として共同でマンションの将来のことを考えなければ資産価値も下がってしまいます。
当事者の理事さんたちの議論が白熱し、個人の日々の生活の話が多くなり、はたまた値上げはしないでこのままで・・・・という意見も出だしました。

そこで、当事者ではない第三者のマンション管理士だからこそできる説明をしました。

国土交通省が発表している全国一般の修繕積立金㎡単価の平均は202円/㎡。今後この長期修繕計画の通りに実行されるとは限らないし、必ずしもこの通りに実行する必要もないこと。
今回の長期修繕計画はあくまでも目安であり、その時々で工事を実施するかどうかを判断されたらよいと考えます。工事価格も変動する可能性があり、経済情勢、社会情勢の変化もあります。

長期修繕計画は定期的(概ね5~6年)ごとに見直すべき性質のものであり、数年後には、法律の変更、生活水準の向上なども総合的に勘案して見直す必要があること。
だからと言って先送りにせずに、現状を受け止めてみなさまの生活に無理のない範囲で、ほかの住民には事実を知らせることが必要だということなどをアドバイスしました。

それから、一人の理事が「自分の家計のことを思うと値上げは本当に厳しいけど、管理組合の理事の立場の意見としては、きちんと積み立てをして自分のマンションの資産価値を維持することを考えないといけない。」と発言されました。

ここから議論に少しずつ変化が見られ、当事者ではない第三者のマンション管理士だから可能な、中立的、客観的なファシリテートを行いながら冷静な議論を進め、合意形成をおこない、値上げに向けて理事会は動き出しました。

2回の住民説明会を開催し、アンケートも2回実施し、臨時総会に臨みました。このマンションの合意形成の結果、均等に積み立てるパターンに決まりました。

管理組合ではいろいろな場面がありますが、管理組合の管理運営で、ことを進めていく上での問題点を洗い出し、現状を理解して、目標に向かって理解と納得してもらうための手続きと手順を間違わずに、コミュニケーションをとりながら合意形成のサポートすることが、管理士の役目だと考えています。